第40回 「震災と読書―どんな読書体験をしましたか?―」(要約筆記つき)
■ 日時:2014 年 12 月 21 日(日)15:00-17:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 7f スタジオa
■ ファシリテーター:綿引周(てつがくカフェ@せんだい)
■ 参加無料、申込不要、直接会場へ
■ 問合せ:tanishi@hss.tbgu.ac.jp(西村)
■ 主催:せんだいメディアテーク、てつがくカフェ@せんだい
■ 助成:一般財団法人 地域創造
《今回の問いかけ》
「震災と読書――どんな読書体験をしましたか?――」
震災のあと、とくべつある本を貪るように読んだ、あるいは、全く本を読めなくなった――そうした体験を持った方は少なくないのではないでしょうか。
そのような「読書体験」を持ったことには、人それぞれ様々な理由があるでしょう。たとえば「正確な情報を知りたくて」、「過剰な情報を整理したくて」、「震災後考えざるを得なかった問題について答えやヒントを求めて」、「現実から距離をおきたくて」、「これ以上誰かの声を聞きたくなくて」…等々。
なぜあのとき本をあんなふうに読んだのか/読まなかったのか、なぜあの本にあれほどハマったのかについて、これまでさほど省みなかった人もいるかもしれませんし、既になんとなく、自分でその理由を掴めているひともいるかもしれません。今回のてつがくカフェは集まった方々の「読書体験」を拾い集めるところからはじめて、その体験を互いに語り合いながら、各々の「読書体験」を深く掘り下げていく方針です。
そうして、なぜそのような「読書体験」を持ったのかについて各人の考えが深められるかもしれませんし、もっと一般的に、本や文学、読書のもつ力について、あるいは文字で書かれてあることの意味、それを読むことの意味について、はたまた全く別の事柄について話すことになるかもしれません。いずれにしても今回のてつがくカフェは震災について、集まった方々の「震災後の読書体験」を切り口として自由に対話を進めていくつもりです。震災のあと、本と特別な関係を持ったひとにとっても持たなかった人にとっても、「読書」というこれまでとは少し異なる観点から震災について、震災のあとのことについて考えるきっかけとなれば幸いです。
綿引 周(てつがくカフェ@せんだい)
《てつがくカフェとは》
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
第40回 てつがくカフェ「震災と読書―どんな読書体験をしましたか?―」(要約筆記つき)レポート
今回は参加者のみなさんに震災以後の“読書体験”について語ってもらうことから始め、そこから次第に問いを導きだしていきました。最後には少しだけ、その問いについてみんなで考えることもできました。
ここで言う“読書体験”はあらゆる書き物に関わる体験であり、インターネット上の文章や新聞を読むこと、あるいは “読めなかった体験”も含めます。
実際、参加者の中にも、震災直後、なぜだか本がまったく読めなくなったと仰っていた方がいらっしゃいました。読んでも「意味がすりぬけていく」というふうに。けれども、しばらくしてから、知らぬ間に読めるようになっていたといいます。
反対に、震災をきっかけに本を読むようになったというひとも何人かいました。ある方は震災をきっかけにして「世界」に注意が向かうようになり、世の中で起きている事柄について“自分の”考えを作り上げるために本を読んだり(当時その方は小学5年生だったそうです)、ニュースに出てくる言葉を辞書でその都度調べるようになったりしたそうです。
ほかにも、例えば堀江敏幸さんの『なずな』(集英社)や、この本に対するツイッター上での高橋源一郎さんのコメントが掲載されている『「あの日」からぼくがかんがえている「正しさ」について』(河出書房新社)、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)や、早野龍五さんと糸井重里さんの共著『知ろうとすること。』(新潮文庫)など、震災以降に読み感銘を受けた本を挙げ、ときにはそれを朗読しながら、 自身の読書体験を語ってくれた方々もいました。
対話の中盤では、多くのことを語り合う中で「引っかかる言葉」として印象に残った言葉、いわば対話の“キーワード”を挙げていきました。そこには「理解すること」や「ざわざわ」、「体力」、「勇気」、「忍耐力」といった言葉が含まれていました。後の3つは、読書には「体力」や「忍耐力」、「勇気」といった力が必要ではないかという話から抽出された言葉です。
また、「読書の特権性」というキーワードも挙がりました。ただしこの場合の“読書”は “本”のかたちになった文章を読むことで、ウェブや新聞上のそれを読むこととは異なります。そして、後者に比べてなぜ“本”を読むことは特別なのかを考えるために、ある参加者の方から「なぜ読書するのか」という問いが出されました。
この問いについてみんなで考えていくと、最終的には「出来事のメカニズムを理解するため」、「自分についてよく知るため」、「(足りない何かを)“埋める”ため」、「(社会的な)個人になるため」といった意見が出てきました。
震災直後の状況や読書体験が「思い出せない」と仰っていた方がいましたが、その方にとっても、また他の方にとっても、それを思い出すきっかけとなる対話になっていたのではないかと思います。これを機会に、当時読んでいたり、震災が起きて読むのを中断していたりした本を、改めて読み返してみてはいかがでしょうか。
報告:綿引 周(てつがくカフェ@せんだい)
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