てつがくカフェ第60回「『心の復興』を問い直す」(要約筆記つき)
■ 日時:2017 年 5 月 4 日(木・祝)15:00-17:30
■ 会場:せんだいメディアテーク 1f オープンスクエア
■ ファシリテーター:西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
■ ファシリテーショングラフィック:近田真美子(てつがくカフェ@せんだい)
■ 参加無料、申込不要、直接会場へ
《今回の問いかけ》
復興庁は、平成28年度より、「被災者支援総合事業」のうちに新たに「心の復興事業」をくわえ、法人だけでなく、幅広くさまざまな地域活動を行なっている団体から交付金の申請を受け付け始めています。
復興庁によれば、本事業は「東日本大震災に伴う避難生活の長期化や、災害公営住宅等への移転など、被災者を取り巻く生活環境が変化する中で、被災者が安定的な日常生活を営むことができるように、被災者の円滑な住宅・生活再建の支援、心身のケア、生きがいづくりによる『心の復興』や、コミュニティ形成の促進等の各地域の復興の進展に伴う課題に対応した支援活動の実施に必要な施策を総合的に支援することを目的」としており、被災地住民の医療や教育、さらには居住環境の整備といったインフラ面での復興とは異なった、いわゆる「生きがいづくり」などの「心の問題」にいっそう照準が絞られた復興事業と言えます。これまで採択された事業活動を見てみると、とくに、古くからその地域に伝わってきた祭りや民俗芸能の再興やその継承に関わるような、「文化・芸術」を切り口としたプロジェクトやワークショプなどが目につきます。
ここで言われる「心の復興」が何を意味するのか、またそのためにどういった事業内容が選ばれているのか、なんとなくですが理解することができます。しかし、そもそも「心の復興」とは何か、また、なにゆえにそれがいま求められるのかをあらためて問われると、結構こたえに困るものです。はたして、「心が復興する」とはどのような状態を指すのでしょうか。それは、さまざまな「事業」というかたちをとおして、外部から後押しされて進められていく類のものなのでしょうか。「心の復興」について緩やかに共有されているイメージや前提を解きはらい、いま一度、そのことの意味や意義について問い直します。
(てつがくカフェ@せんだい 西村高宏)
◆ 問合せ:mmp0861@gmail.com(てつがくカフェ@せんだい 西村)
◆ 主催:てつがくカフェ@せんだい、せんだいメディアテーク
◆ 助成:一般財団法人 地域創造
《てつがくカフェとは》
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
てつがくカフェ第60回「『心の復興』を問い直す」
本日はゴールデンウィークの最中だからでしょうか、青年の参加者がいつもより多く感じられました。さて、今回は「心の復興」について緩やかに共有されているイメージや前提を解きはらい、今一度、その意味や意義を問い直す対話が繰り広げられました。
震災に関わるさまざまな事象と適度な距離感が持てることや事象を受け入れて前向きになることが「心の復興」ではないかという意見があり、それは<状態>を指したり<試み>であったり、受け止め方は人それぞれのようでした。また、新しい道路ができるなど「モノ」の復興が「心の復興」に影響を及ぼしているのではないかという一定の順序をもつ見方もありました。
その後、「心の復興」という言葉遣いに違和感をもつ意見が多く出ました。例えば、「心の復興」には「私」という主語があてはめられない、あるいは、復興の定義はマイナスからプラスへの変化を指しているが人の心はこのような状態にならないので言い当てられないというものです。
そもそも「心」はその人のものでありひとつには決められないものであるにも関わらず、国で「心の復興」という取り組みをすることはマインドコントロールなのではないか、公共性が意図的にまとめられており操作的だろうとの見方もありました。どうやら「心の復興」の問題性が根っこにありそうです。
これまでの対話を踏まえ、キーワードを選出しました。
① 私
② 心の復興は「誰のものか?」(のために/に向けて)
③ 状態を目指すものなのか(示すものなのか)
状態/性質/目的
④ 復興/新興
⑤ 公共性
⑥ 幸せ
⑦ 強い心/弱い心
⑧ 誰が?
⑨ こころ(個人?生きがい?居場所?)
⑩ 時間(いつ終わるのか?)/評価
⑪ 受け入れる
これら11のキーワードは、・誰が行うか ・関わり方/意味づけ ・意味内容 ・心の感触 ・時間/評価 の5つに分類できました。
その後の対話の中で、「心の復興」とは「自己」で立ち、「他者」を意識せずに人生を歩むことだ、という意見がわたしの胸に突き刺さりました。
しかし、それには抜け落ちている視点があったと、その発言者は付け加えます。
自分の物語は自分で書き進めなくちゃけいない。でも、自分だけでは完結しない。他者の承認がなければ、その物語に力強さを与えることができない。だから他者が必要であり、関係性が育まれ、社会的なものになると。
また、人間というものは社会の中で生きていく上で共同体の壁にぶち当たることがあります。その時、共同体と折り合いをつけなければいけない時が必ずきます。「私の心」だけでは済まない時期がきます。
今回の「心の復興」を問い直すというテーマの対話では、時には自分の心に折り合いがつかず、他者に譲渡したくなる時もあることや、宛先がなく行方もない「心の復興」に違和感を覚えることなど、自分の中で抑えこんでいる意見をこの場で吐き出すことができたように思います。その上で、心の復興について私たちの問題として考え続けていきたいと思います。ご参加下さいましてありがとうございました。
報告:木村涼子(てつがくカフェ@せんだい)
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