第33回 「セクシュアリティから、問われなかった〈私〉を問う 〜震災 とセクシュアリティ4〜」
■ 日時:2014 年 5 月 4 日(日)15:00−17:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 1f オープンスクエア
■ ファシリテーター:房内まどか(てつがくカフェ@せんだい)
■ 参加無料、申込不要、直接会場へ
■ 問合せ:tanishi@hss.tbgu.ac.jp (西村)
■ 主催:せんだいメディアテーク、てつがくカフェ@せんだい
■ 助成:財団法人 地域創造
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とうとう「震災とセクシュアリティ(*)」のシリーズも4回目を迎えることになりました。なぜここまでセクシュアリティの問題について粘り強く対話するのか、疑問のある方もいらっしゃるかもしれません。しかし私たちは、セクシュアリティという自分たちの根幹にかかわることなのに、日常で「問う人、問わない人」―いわゆる多数派と少数派―で別れてしまう構図や、当たり前のことと考えてしまう私たちの思考に、問題があるのではないかと考えています。もしかしたら、「被災者」という言葉にも、今後似た意味が生じてくるかもしれません。
今回は、2月に行われた対話で新たに練られた問いや、「性に関する規範」というキーワードをさらに考えていきたいと思います。前回の対話で、参加者の方から「多数派と少数派に分けること」「問う人と問わない人がいる」という疑問が投げかけられてきたのは、それまでの性の枠を壊し始めた証拠だと思います。だからこそ、今まで自分のセクシュアリティに疑問を持たずに過ごしてきた人たちに、今一度、意識さえしていなかった自分の性から問うてほしいのです。「みんな」や「あの人たち」から問うのでは、いつまでも問題の根っこに触れられないからです。
もちろん、今まで自分のセクシュアリティを問うてきた(いや、問わざるをえなかった)方々と一緒に考えながら進めていきたいです。セクシュアリティを問い始める前と後で自分がどう違うのか、あるいはマイノリティという「小さなみんな」の中でのみ何かを考えるようになっていないか、といったことも課題になるかもしれません。当事者は日常的に「我慢を強いられる」と感じ、非当事者が「我慢は誰しもすること」と発する。すると、また別の非当事者が「我慢の量が違うのでは」と頭をひねる。
このように、さまざまな立場の人たちが同じ場で話す機会だからこそ、新たに見えることがあるように思うのです。
自分のセクシュアリティを改めて問うことは、新しい自分を発見することかも知れません。そしてそれを他者と語り合うことは、新しい世界を発見することかも知れません。1年前にこの場所での「てつがくカフェ『震災を問い続けること』」開催時に、投げかけられた問いを手元にたぐりよせながら、新たな意識で再び考えていきたいと思います。
*セクシュアリティ…人の性の包括的なありよう。身体の性、ジェンダー、性自認、性的指向等の要素がある。
(参考:レインボーアーカイブ東北 用語解説 http://recorder311.smt.jp/information/33307/)
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てつがくカフェとは
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp/
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第33回 てつがくカフェ「セクシュアリティから、問われなかった〈私〉を問う 〜震災とセクシュアリティ4〜」レポート
今回の対話を振り返り、思うことは、とても語りづらい、対話の成立しづらいテーマにもかかわらず、参加者の皆さんは活発に発言をし、粘り強く対話を継続していた、ということです。
今回は、「語りづらさ」について報告してみます。
・参加者の間でテーマに対する経験や感じ方に違いがあり、知識、考え方として共有されていない部分が大きく、共有されないために隔てられた部分を繋いで渡りがつくようにするには、非常に多くの言葉と時間を費やして語ったり聴いたり問うたりする必要がある、ということによる語りづらさ。
・多くの人にとって普段意識すること無く済ませられる事柄・状況であっても、セクシュアルマイノリティにあたる人にとっては、大きな不利益がもたらされる、または、もたらされかねない事柄・状況にもなり得る。そうしたことに対するおそれが、事実や経験、意見などについて表明することを抑制させる要因となる、ということによる語りづらさ。
・セクシュアルマイノリティとして大きな不利を感じている人がいる状況があり、共にその状況に参加しながら、そのことについて普段意識せずにいられる多数派に属している自分、あるいは有利でいられる自分、もしかしたら加害者であるかもしれない自分に気付いてしまった、ということによる語りづらさ。
・性に関する物事は、性的な行為についての具体的な内容や好意を持っている特定の相手など、大っぴらには語りづらい事柄を多く含んでいる、ということによる語りづらさ。
・そうした大っぴらには語りづらい事柄を、初めて会う素性の知れない相手に向け、公の場において伝える、という語りづらさ。
・「規範」「社会」(参加者の方々の発言の中に現れたキーワード)という、言葉としては広く共有され、多くの人が関心を寄せつつも、その具体的な経験や理解が共有されているか否かが曖昧な事柄について対話しようとしている、ということによる語りづらさ。
・「規範」「社会」という、自分がそこに参加してはいるものの、その来歴や根拠が手に届くところに無いために、自分の影響力や責任を感じにくい/持ちにくい、かつ、その対象が具体的にわかりにくい事柄について対話しようとしている、ということによる語りづらさ。
対話の後半、参加者の方から「対話ができていないことに違和感を持つ」という発言があり、それを受けて対話が成立する/しないということについて意見が交わされました。その一連のやりとりと今回の対話を振り返ってみて、上に挙げたような「語りづらさ」があったのではないか、と思っています。
まず、多くの人は、身なり・トイレ・更衣室・風呂・共同生活などに関して、男性または女性の区分に応じて状況を判断し行動すること、あるいは、対処されることに不都合を感じることは少ないと思います。一方で、そういった状況を含む日常のあらゆる場面で、セクシュアル・マイノリティにあたる方が、不都合や不公平感、居心地の悪さを感じているという側面もあります。今回の対話や以前の対話でも、外見や行動の性別が戸籍上の性別とは違う、女性の身体でも女性用下着を身につけたくないと感じる、トイレ・更衣室・風呂で男性用・女性用の選択をする際に違和感を覚える、また、更衣室・風呂で自身の身体を人目にさらしたくないと感じる、同性同士で避難所暮らしをしていると奇異の目にさらされる、同性同士で同居しても家族とみなされないので、相手が入院しても面会を謝絶される、災害時に相手の生存について通知されなかったり確認の照会ができなかったりする、といったお話がありました。
同じ状況にあっても、不都合なく無意識的にやり過ごせる立場がある一方で、不都合や不公平感、居心地の悪さを感じ、その状況に対処するための言葉や知識が必要になる立場もあり、それぞれに考え方も違います。そのようにして両者の間に発生している隔たりは、4回の対話の機会を経て小さくなっている感触もありますが、まだまだとても大きいようだ、とも感じます。
今回の対話では、自分がセクシュアル・マイノリティであるということを明らかにした上で発言される方が多くいました。たしかに、第一回目の対話で生じたように「その場に強要されてカミングアウトせざるを得なかった」といった雰囲気は少し和らいだ印象があります。しかし、カミングアウトに抵抗を持ちながら参加したり、参加自体を控えられたりする方もいらっしゃいました。実際、第1回目の対話では、セクシュアル・マイノリティであることが明らかになることで、そうではない立場の人々から差別や暴力を受け、心身を傷つけられ、極端な危険にさらされる場合もあるというお話もありました。そうしたことへおそれを感じているとすれば、自身がセクシュアル・マイノリティであることを明らかにすることや、そう人に想起させるような経験や考えなどについて発言することはしないという選択があるとしても、無理も無いことだと思います。今回、セクシュアル・マイノリティの方に語りにくさが残っていたかもしれない、ということは、考えておいていいことだと思っています。
性についての具体的な事柄など、対話の中で取り上げられていない話題があるという発言もありました。性的な行為や、好意を持っている特定の相手などは、普段親しい人と話すことはあっても、大っぴらに話すことは避けられる傾向のある話題でもあります。
たしかに、これまでの対話の中では、身体的・精神的な快/不快につながる行動としての性的な行為についての発言は、ほとんど現われていません。以前の対話で上がった、ある同性愛者の団体が府中青年の家という宿泊施設を利用しようとして拒絶されたことに対し、東京都を相手に裁判を起こした、という話題の中で一言二言触れられた内容のほか、血のつながった子孫を残すということ、動物の同性同士の性行為など、やや間接的な観点からの意見に留まっています。
このような特定の発言や行動を忌避するような社会的な傾向は、「規範」「社会」にも関係してくると思いますので、今後の対話の中でも取り上げられるかもしれません。
「規範」「社会」については、言葉としては広く共有されていて、発言された参加者の方の多くが関心を寄せていましたが、それについての具体的な経験や考え方、理解の仕方については、一致は少ないように思えます。
対話の中で現われた発言に印象に残る問いがあります。セクシュアル・マイノリティの人は社会に受け入れられたいと思っているのか、という主旨の問いです。この問いを受け、私の中で、受け入れられる/認められるとはどういうことか、誰に/誰が受け入れられるのか、誰に/誰が認められるのか、という疑問が浮かびました。そして、誰が受け入れるのか、誰が認めるのか、という疑問も浮かびました。社会というものと、その外部のマイノリティという存在があって、そして、社会の価値観などに適えば、マイノリティという存在でも、社会という内部にその一員として入っていくことや居ることが認められるようになる、という見方のように感じました。
参加者の方からは、受け入れられたいと考えることは無く、認められようが認められまいが自分は社会の中に生きている、しかし社会の制度はセクシュアル・マイノリティを無視していて不当だ、という意見がありました。セクシュアル・マイノリティも普通の人だという意見もありました。誰がどのような価値観を持とうが、セクシュアル・マイノリティであろうがなかろうが、社会を構成する一員である、という見方のように感じました。
また、「規範」「社会」の来歴や根拠について理解しようとしている方が多かったように思えます。中には、「規範」「社会」の現在のあり様だけに限らず、戦前、明治維新の後、江戸時代、原始時代など、現状の前提となっている「規範」「社会」の過去のあり様とその変遷について話される方もいらっしゃいました。
しかし、「規範」「社会」という、自分の影響力や責任を感じにくい/持ちにくい事柄が話題の主となったために、セクシュアリティの話題のうち人対人の関係として現われる部分についての話題が少なくなっていたと思います。それが、セクシュアリティの問題に対する自分の責任について考えることを曖昧にさせ、参加者の方の、「人対人の対話ができていない」という違和感のもとになっていたのかもしれません。
セクシュアリティをテーマとした対話も今回で4回目になりましたが、まだまだ継続する必要がありそう、と感じています。語りづらいところがあるにもかかわらず、参加者の皆さんは、積極的に発言されていました。挙手も多く、時間が制約されている中では、挙手された方全員に発言してもらうことはできませんでした。参加者の方は、もっと発言したい、まだ語り尽くしていない、という様子でした。
今後もセクシュアリティをテーマにした対話の場をつくり、引き続き皆さんと考えていきます。次回の対話にも、ぜひ、ご参加いただきたいと思います。
報告: 小松健一郎(てつがくカフェ@せんだい)
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