第21回「震災を問い続けること」(要約筆記つき)
■ 日時:2013 年 5 月 6 日(月・休)15:00−17:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 1f オープンスクエア
■ 参加無料、申込不要、直接会場へ
■ 問合せ:tanishi@hss.tbgu.ac.jp (西村)
■ 主催:せんだいメディアテーク、てつがくカフェ@せんだい
■ 助成:財団法人 地域創造
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震災を問い続けること
2011年3月11日以降、「考えるテーブル てつがくカフェ」では、震災という〈出来事〉を〈対話〉という営みをとおして自分たちのことばで語り直す場を拓いてきました。毎回多くの方にご参加いただき、「てつがくカフェ」は今回で21回目を迎えます。
東日本大震災の発生から3年目をむかえ、さまざまな場で復興の声が聞かれるようになりました。それにともない、震災という〈出来事〉が過去のものとして語られるようになり、震災を粘り強く問い直そうとする場そのものを拓き続けること自体困難になりつつあります。しかしながら、復興の進み具合にともなって生じてくるさまざまな意識の違いや格差(私たちはこれらの「格差」を第18回「てつがくカフェ」において「分断線」といったキーワードをもとに議論しました)など、震災をめぐる問題は時間の経過とともに新たな、そしてさらに厄介な問いを私たちに突き付けています。そういった状況からすれば、私たちに今求められているのは、震災を過去のものとして〈総括〉してしまうような態度ではなく、時間の経過とともに新たに生じつつある問いをしっかりと見定め、それらを安易に解消してしまうことなく粘り強く問い続けようとする構えにほかなりません。
3年目に突入する今回の「てつがくカフェ」では、このような「震災を問い続けること」の意味やその困難さなどについて、あらためて参加者のみなさんとともに〈対話〉を深めてみたいと思います。そして、そこでの議論が、3年目以降の「てつがくカフェ」で取り上げるべき幾つかの重要なテーマを新たに手繰り寄せてくれると私たちは考えています。みなさま、ぜひご参加ください。
(てつがくカフェ@せんだい 西村高宏)
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てつがくカフェとは
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
てつがくカフェ第21回「震災を問い続けること」(要約筆記つき)レポート
ファシリテーター:房内まどかさん震災以降3年目を迎えるてつがくカフェは、数えると21回目の開催となりました。もはや「震災以降」という時代の呼称にも慣れた人々が、時がたつにつれ、あるいは当の地から遠のくにつれ、〈震災〉という出来事からの〈距離〉を広げていくことは避けられません。これを事実として踏まえると、遅かれ早かれどうしても「震災を問い続けること」そのものが問題として取り上げられなければならなくなります。とはいえこのことを問題とするのに、3年目を迎えるこの時期、この場所であるのが果たして適切なのだろうかということも含めて、今回のテーマ設定は“微妙”なものであったと言えるでしょう。 ――実際のところ、今回のテーマは多くの人々にとって実感を伴わないものである可能性もあり、そのことは私たちスタッフの憂慮するところでもありました。
しかし一端ふたを開けてみれば、それは杞憂であったことを知らされました。それどころか上で述べたのとは反対の方向で「なぜ今この問いなのか」という声もあったほどです。つまり、今はまだ「震災を問い続けること」が問いに付されるはずがないのだから、このテーマには違和感があるという意見さえ聞かれたのです。真意を正確に確認することはできませんでしたが、筆者が聞いていた中では他にも何人かの人々がこのような意図を込めて話をされていたように思います。またそうした意図を込めてはいなくとも、今回出た意見のほとんどは「震災を問い続けること」そのこと自体は問うまでもない前提として発せられていたように感じました。あるいはたとえ声にならなかったとしても、総勢で約90名の方々が今回のカフェに立ち寄ったという事実が、既に開催前の私たちの杞憂を証明するものかもしれません。
したがって今回の対話は「震災を問い続けること」のいわば“内部”で進んだように思います。そこで語られた内容は多岐にわたりましたが、筆者にはそれらが、これまでのてつがくカフェでの対話のダイジェストのように見えていました。――ごく一部を取り上げてそれらの要点を(乱暴にも)一言で表すとすると、震災を忘れてほしくないということ、風化を防ぐために震災を「伝えて」いくべきだということ、当事者と非当事者との間の感覚のズレ、あるいは、マジョリティ/マイノリティ、津波の被害者/非-被害者、被災者/非-被災者、東北の人/東京の人/関西の人/・・・その他多くのカテゴリーによって分けられた人々の間に存在する〈分断線〉、彼らの間に存在する〈距離〉について等、多種多様な立場から、多様な事柄が語られていました。これらは皆、これまでの2年間にてつがくカフェが取り扱ってきたテーマであり、そこで語られてきた事柄であり、あるいは少なくともそれに通ずるものであったと思います。
〈震災〉について人々が抱く多様な思いを聞き伝える場所として「てつがくカフェ」が機能していることは非常に喜ばしいことです。〈震災〉について、これほど多様な人々が一堂に会して語り合う場所はそう無いのではないでしょうか。「てつがく」という言葉を冠するカフェだからこそ、これほど多様な人々が集まり多様な事柄を語りうるのかもしれません。とは言っても、多種多様な人々が集まれるのは、決して「てつがく」が無内容であり、それゆえ恣意的な意味を持つからではありません。そうではなく、「てつがく」の持つ普遍的な性格ゆえに、肩書や立場などのカテゴリーに縛られない、多様な人々がその名の下に集うことができるのではないでしょうか。
しかし「てつがく」の持つ普遍的な性格が無内容ではないとして、それは一体どういった意味を持つことになるのでしょうか。この問いに全面的に答えることは筆者にはできませんが、少なくとも「てつがく」の持つ普遍的な性格は、「震災を問い続けること」の内部で問題となったあの〈分断線〉――様々な「立場」や(被災)経験の差異によって、人と人との間に生じ、また時にはひとが自ら他人との間に設けてしまう「溝」――を乗り越える可能性を含むはずです。なぜこれが「てつがく」に可能かと言えば、ひとつには、たとえあるテーマに対して様々な立場やそれに関わる経験の差異がありえたとしても、「てつがく」する人々は、そうしたこととは次元を異にした「思考」の舞台へと上昇しようとするからです。「思考」という普遍的な舞台の上だからこそ、個々の経験や立場や経歴に捉われない、様々な人たちが同じ場所にいられるのではないでしょうか。
「思考の場」という観点で「てつがくカフェ」を見た時、その場の備える性格によってたしかに今回の対話には多種多様な人々が集まることができていました。これまでの2年間もそうでした。繰り返しになりますが、それ自体すでに喜ばしいことではあります。しかし「思考の場」は、そこに人々が集まるためだけにあるのではなく、まさに「思考」するための場所であるはずです。こう考えたとき、果たして今回のカフェで私たちは「思考」することができていたのでしょうか?
もちろんその答えは参加した個々人によって異なるとは思いますが、ひとつ、「思考の場」を提供する者としては見逃せない、重大な思考の盲点が今回の対話にはあったということについてここで書かせて頂きたいと思います。それはすでに何箇所かで仄めかしていたことではありますが、今回の対話の流れには「震災を問い続けること」そのものに対する「問い」が、問われるべきではないものとして終始意識されていたということです。なぜこの問いが伏せられることになったのかと言えば、今回の対話に集まった人々がみな、現時点でもあまりに当然のごとく〈震災〉について関心を持ち、〈震災〉と関わろうとしている人たちばかりだったからだと思います。たとえ〈震災〉に関わろうとする気持が薄れてしまったと告白した方においてさえ、逆説的にも、罪悪感の吐露というかたちで〈震災〉と強く結び付いていることの表現となっていました。
確かに、今回参加した下さった人々にとってあの問いは、問われるべきではない問いだったのだろうと思います。あるいは問われる必要の無い問いだったのかもしれません。だからこそ、今回のテーマと関連して、東北以外の地域の人たちが「震災を問う」ことをしなくなってしまったことについて悲観的な、あるいは「そうあるべきではない」というニュアンスを込めて述べている方々もいたのだと思います。しかし、どなたかが自身の体験として話していたように、東北に住む私たち自身が、よく言われる「アフリカの子どもたち」や、四川の大地震の犠牲者たちのことを「問う」 ことをしているのかと言えば、ほとんどの人がそうではないのではないでしょうか。この場所で今、当然のこととして伏せられたあの問いは、場所や時代が変われば必ずしも問うべきではなかったり、問う必要がなかったりする問いであるわけではありません。私たちにとって「〈アフリカの子どもたち〉を問い続けること」が当然ではないのと同様に、その人たちにとって「震災を問い続けること」が当然ではない――したがって敢えて問いに付すべき――事柄であるような人々が現にいると考えるほうが自然であるように思えます。しかも今回の対話の中で、そういった人々に向けて、そういった人々に対して訴えかけるかのように為された発言のいくつかは、そういった人々が当然投げかけるであろう「震災を問い続けること」自体への問いに答えずにどうして届くのでしょうか。場所や時代の制約に縛られない、普遍的な問いに取り組むという「てつがくカフェ」の課題にはまだ、やり残した部分があると言わざるをえません。
今回、せっかく多種多様な意見が出て、多種多様な人々の語りに触れて、それだけでも十分価値のある対話となったにもかかわらず、あえてここでこの課題――「震災を問い続けること」自体への問いと向き合うという課題―――を際立たせようと思ったのは、この課題の存在そのものが、そうした問いを発せざるを得ない人々、あるいは“非当事者”や“非被災者”と、今回対話の場に集った人々、あるいは“当事者”や“被災者”とが――こうした諸々の呼称の狭間に横たわる〈分断線〉を超えて――そのより普遍的な「問い」にかかわる思考の舞台に立つことによって、互いに繋がることのできる可能性を示唆するからです。さらにはもし、その問いに積極的な答えが見いだせていたとするならば、それでこそ実際にあの「訴え」を届かせることができるようになるはずだからです。だからこそ「思考の盲点」と呼んだ点について口をつぐむわけにはいきませんでした。
とはいえ、いま述べた「課題」が今回浮き彫りにされなかったことは参加者に責任がある、というようなことでは決してなく、顕わにできなかったことそのこと自体が私たち「てつがくカフェ」を運営するものにとっての「課題」であって、今回の対話で出された〈震災〉についての諸々の論点とともに、本年度の「てつがくカフェ」が取り組んでいくべき点なのだということを最後に強調して、ここに記しておきたいと思います。
報告:綿引周(てつがくカフェ@せんだい)
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板書のまとめ
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◎ カウンタートーク
- カフェ終了後に行っていたスタッフによる延長戦トークです。以下より視聴できます。
http://recorder311.smt.jp/series/tetsugaku/
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