〈3.11以降〉読書会-震災を読み解くために-第2回
■ 日時:2013 年 5 月 12 日(日)19:00−21:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 7f スタジオb
■ 問合せ:philcfsendaiaw@gmail.com (綿引)
■ 主催:せんだいメディアテーク、てつがくカフェ@せんだい
■ 助成:財団法人 地域創造
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この「読書会」について
「読書会」は、あるひとつの本を取り上げ、それを参加者みんなで一緒に読んでいくものです。この読書会では、ほかの人々と共に読むということを最大限活かし、ひとつの本に対する人々の多様な「読み方」を大切にします。そうして参加者どうしが協力し合い、触発し合って、〈震災〉という出来事を――それを直接に扱う「震災関連書」をひとりで読むだけでは辿りつけないようなところまで――深く「読み解く」ことができるような場でありたいと願っています。
今回取り上げる本について
初回から何回かに渡って、まずはジャン=リュック・ナンシー著「フクシマの後で 破局・技術・民主主義」(渡名喜庸哲訳、以文社)をじっくりと読み解いていこうと思います。さしあたり目標とするのは、この本の第一章「破局の等価性」を読み切ることです。
第一章には、ナンシーが、2011年12月17日に東洋大学で行ったウェブ講演会「ポスト福島の哲学」で発表された原稿を元にして公刊された文章が収められています。ジャン=リュック・ナンシーはフランスの(今も存命中の)哲学者で、渡名喜さんによる「訳者解題」によれば、「フランス現代思想」の系譜に位置するほとんど「最後の生き残り」であるそうです。読書会を進めるに当たっては、とにかく量よりも質を重視します。たとえば一回に一節も進まない場合があることも覚悟しておいてください。しかし文書の理解は文書の全体にも依りますから、初回や2回目までにはせめて第一章の全体には目を通しておくことをお勧めします。そのさいに各人が全く理解できなかった箇所、気にかかった箇所、印象的な箇所が必ずあるはずですから、まずはそこを糸口にし、そこから対話の力を媒介としながらも、本を深く読み進んでいけるように読書会を進めていこうと思います。
綿引周(てつがくカフェ@せんだい)
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てつがくカフェとは
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
〔 市民団体、震災復興、<問い>をたてる 〕てつがくカフェ〈3.11以降〉読書会-震災を読み解くために-第2回レポート
第2回目は、資料を使って前回を振りかえるところから始まりました。資本主義社会が成立し、貨幣と技術の緊密な連関を経由することによって「等価性」があらゆる領域に浸透してしまったこと――このことが現代の災厄を破局的なものにし、それゆえ「結局、この等価性が破局的なのだ」と、『フクシマの後で』の著者=ナンシーに言わしめたものでした。 つまり前回は、ナンシーの問題提起を把握したところまでで終わったわけですが、それでは、彼はこの著作の中で、この問題に対してどう取り組んでいこうとしているのでしょうか。今回はこの点について書かれてある箇所(p, 26、「とはいえ~」)から読み始めました。まず確認できたことは、ナンシーは資本主義という「悪しき主体」に対して、それとは反対の「良き主体」や「『復活した文化』に属する一切のもの」を対置しようとしているのではないということです。――ところで、この「『復活した文化』に属する一切のもの」や「良き主体」について、参加者の方々はどういったイメージを抱いたのでしょうか。とりあえず、「『復活した文化』に属する一切のもの」については(注で触れられているような)「真」「善」「美」といった価値が思い浮かべられます。したがって、少なくともナンシーがしたいのは、これらの価値をあたため直すことではないのだろうということが分かります。「悪しき主体」ということで思い浮かべられた「金の亡者」となることをやめて、自然の美や芸術作品の鑑賞に浸ったり、真理を追い求めよ、などと言おうとしているわけではないのです。しかしもう一方の「良き主体」については、なかなかナンシーが何を念頭に置いているのかはわかりませんでした。「良き主体」の例として挙げられている「超人間的」な主体としては、ニーチェの「超人」なるものが該当するのではないかという声も聞かれましたが、他に例として挙げられている「超自然的」「超道徳的」「超精神的」な主体が具体的に何であるかを考えるのはわたしたちの手には余りました。とはいえ、ここでナンシーが言おうとしているのは、資本主義という主体に対して、それの代替物を用意するというようなことではない、という一点はとにかく確認できました。では、ナンシーはここで何を言おうとしているのか。当然それが疑問として浮かんできますが、前文のこの箇所からそれを読みとることはできそうにありませんでしたので、本文の中で、特に10節などでそれが理解できるようになることを期待して、さらに先へと読み進めることになりました。 しかしその前に、ナンシーの用いた次の表現について参加者の方々が何を思うのか聞いてみたいという要望が訳者の方(今回は訳者の渡名喜庸哲さんにも参加して頂きました!)からありました。それは、「人類は今、全般的な破局へと向かっている、あるいは少なくともそういうことが可能な状態にいる」という表現です。大体の方がなんとなく、そういうものだろうかと思いながら読んだようですが、中には次のような違和感を表明された方もいました。それは、福島での原発事故はけっきょくのところ局所的な「破局」に留まっており、とても「人類」が「全般的な破局」へと向かう気配はないのだから、「フクシマ」について語るこの文脈でそれを持ち出すのはおかしいのではないかというものです。さらにそれに付け加えて、もしかするとナンシーはここで、冷戦時代に世界中の人々が実感を伴って思い浮かべていた核戦争と、その結果としての人類の滅亡を念頭に人類の全般的な破局という表現を用いたのではないだろうか、ということも言って頂きました。そういえば後で、本文の中で、『博士の異常な愛情』という映画が紹介されていました。その映画のストーリーは、「抑止力」としての核爆弾(やそれを取り巻くシステム)が偶然、人類を滅亡に導くことになるというものです。冷戦は終わったにしても、核爆弾を「抑止力」として用いようとする国々は無くならないどころか増えていくようにも思える現在、「人類」が「全般的な破局」へと向かっているという表現は、それほど突拍子のないものでもないのかもしれません。
さて、こうして「前文」最後の三段落へと入っていったのですが、ここでは「悲劇」という語が中心的な話題となりました。ひとつポイントとなったのは、「カタストロフェー」と訳されている語は、原語では「破局」と同じだということです。また、もうひとつのポイントは、ギリシア悲劇には「終局」の前に「カタストロフェー」があるということ、したがって「カタストロフェー=破局」と「終局」は別のものだということです。この二点は今回の読書会に参加して初めて知った(気づいた)方も多いのではないでしょうか。この二点を踏まえると、最後になぜ、突如として「悲劇」の話題が出てきたのか理解できそうな気がしますが、とはいえこの箇所については筆者もまだ理解できたとは言えませんので、この部分に関する解釈は今のところ、参加者それぞれに任せようと思います。 ただひとつ、フクシマを「悲劇」と呼んでしまえるのはナンシーが悲劇の外にいるからではないかという意見と、それとは一見したところ反対の、彼が悲劇の外にいるから「われわれは一度も悲劇の意味が見いだしたことはない」(p. 28)と言えるのではないかという意見の両方があったことを最後に書いておきます。これは、ここで「悲劇」と言って念頭に置かれているものの理解、あるいは「われわれは一度も悲劇の意味を見いだしたことはない」という一文の理解によってこうした二つの意見に解釈が分かれたのだと思われますが、この点についてもどちらが正しいのかということは今回の読書会の場で判断することはできませんでした。今回の読書会の中で、一見すると正反対の意見が出たことによって、参加者それぞれがこの箇所を読む際にもう一度、ナンシーが「悲劇」ということで何を念頭に置いているのか、あるいはあの一文が何を意味するのかを考え直す機会になればいいと思います。 このようにして初回から二回にわたって、「前文」の頭から順番に、一文一文追って読んで来ましたが、いよいよ「本文」へと入っていく次回、今までとは少しやり方を変える予定です。まだ具体的なことは決まっていませんが、本文全体の大まかな流れを整理し、前提を共有したうえで参加者全員が対話に参加できるようにしたいと考えています。ですからおそらく、次回第三回目からでも十分参加可能な内容になると思いますので、これまで来る機会の無かった方もぜひこの読書会の様子を見に来てみて下さい。
報告:綿引周(てつがくカフェ@せんだい)
第一回目のレポート(PDF/19KB)
この「読書会」について
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