第32回 「葬(おく)るということ」
■ 日時:2014 年 4 月 13 日(日)15:00−17:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 7f スタジオa
■ ファシリテーター:西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
■ 参加無料、申込不要、直接会場へ
■ 問合せ:tanishi@hss.tbgu.ac.jp (西村)
■ 主催:せんだいメディアテーク、てつがくカフェ@せんだい
■ 助成:財団法人 地域創造
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東日本大震災では、沢山の尊い命が一瞬にして奪われました。そのため、燃料不足などで火葬場が稼働できない状態となり、心の整理がつかぬまま、土葬を選択せざるを得ない人々が続出しました。また、行方がわからぬまま、苦渋の決断で死亡認定に踏み切った人々も大勢います。
「一刻も早く供養したい」「普通の葬式をあげたい」。仮埋葬を選択したご遺族の戸惑いは、計り知れないものがありました。
では、そもそも私たちにとって、他者を 〈葬る〉 という行為には、どのような意味が込められているのでしょうか。私たちは、一体、誰の/何を/何のために葬っているのでしょうか。
〈死〉 の受け止め方が人によって異なる以上、このテーマを取り扱うのは、時期尚早だと感じる背景には、何が潜んでいるのでしょうか。
震災から4年目となる今、てつがくカフェ@せんだいでは、あえて、こうした違和感を手繰り寄せながら、他者を 〈葬る〉 という営みについて 〈てつがく〉 的に考えてみたいと思います。皆様のご参加を、お待ちしております。
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てつがくカフェとは
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
第32回 てつがくカフェ「葬(おく)るということ」レポート
今回の対話を終えてみて感じていることは、大きくは、次の5つになります。
・全体的には、静かな雰囲気で進む対話になっていた。
・対話として成立していた。
・地震や津波での経験に基づく発言に限らず、より広い範囲から発言があった。
・葬儀・通夜・葬(ほうむ)り方など、儀式や形式に関連した発言が多かった。
・まだまだ言い尽くされていない。時間が足りない。
1つ目、静かな雰囲気で進む対話になっていたことについて。
参加者の方々自身の経験、近しい方を亡くされたときの経験に基づいた発言が多かったように思います。それが、静かな雰囲気をつくっていったように思います。
近しい方を亡くしたときの状況や気持ちを思い出して、あるいは、それから時間を経た現在の状況や気持ちについて、言葉を探してあてがって、発言されている方が多かったように思います。発言された方々には、震災で近しい方を亡くされた方、震災以外で身近な方を亡くされた方、近しい方を亡くしたことを何度も経験された方、津波のために近しい方を一度に何人も亡くされた方、さらに葬(おく)ろうにも葬るための場も失ってしまわれた方がいらっしゃいました。気持ちを抑えながら発言される方、涙を抑えられない方もいらっしゃったようです。発言に際して、亡くされた方を思い出され、亡くされたことについての気持ちが強まったのかもしれません。
こうした状況から、静かな雰囲気になっていったように思います。
一時、厳しい言葉が応酬される場面もありました。その印象との対比として対話が全体に静かな雰囲気で進んだと感じた、という要素もあるかもしれません。
2つ目、対話として成立していたことについて。
今回の対話でも、皆さんの間で、他の方々の発言を聴き、受け取り、ご自身の感想や意見や経験について発言される、という流れが成立し、先の発言の内容が場の中に広がり、後の発言に影響していく、という様子を感じ取ることができました。
今回の対話は、対話が成立するには非常に難しいテーマ、言葉にすることが難しい事柄についてのテーマだと思っていました。類似の経験が少なく初めての経験となる物事、特別で他者と共有しにくい事柄は、言葉になりにくい、と思っています。
ある誰かを亡くす、その誰かがその方だけの亡くなり方をする、その亡くした誰かを葬(おく)るという、その誰かについて一回限りの経験、その誰かと自分というただひとつの特別な関係における経験、誰とも共有し難い経験を言葉にして語る、対話の場で他者に伝えるために他者と共有できる言葉にして語る、という非常に難しい要素が含まれていた対話だった、とも思います。
加えて、大地震、大津波に襲われ、多くの縁者を一度に亡くし、日常を送っていた環境も失っているという、ほとんどの人がそれまで経験することの無かった稀有で突然な経験を言葉にして語る、ほとんどの人がそれまで経験していなかったために他者と共有できる言葉がほとんど用意されていない事柄について他者と共有できる言葉にして語る、ということも、非常に難しい要素になっていたと思います。
しかし、多くの方から発言がありましたし、対話も成立していたと思います。
3つ目、地震や津波での経験に基づく発言に限らず、より広い範囲から発言があったことについて。
震災をテーマにして対話を始めましたが、対話の全体を通じて、地震や津波での経験に基づいた発言に限らず、より広い範囲から発言がありました。
地震や津波に遭うか否かを問わず、誰しもが死を免れず、人と共に人生を送る以上は、誰しもが誰かの死に立ち会わざるをえず、また、いずれは自分にも死が訪れることを認識させられることだと思います。そう考えると、震災をテーマにしていても、地震や津波での経験に基づく発言にとどまらずに、より広い範囲から発言があることは自然なことのようにも思えます。
4つ目、葬儀・通夜・葬(ほうむ)り方など、儀式や形式に関連した発言が多かったことについて。
対話の中で、全体を通じて葬儀・通夜など儀式に関連した発言が多い、と、ファシリテーターからの指摘がありました。
近しい方を亡くし、通夜・葬儀といった儀式を行い、火葬などで葬(ほうむ)り、遺骨を墓に納め、一周忌・三回忌などを経て、さらに時間が経過するといった一連の経験を通じて起きる感情の変化や、感情の変化の契機となる儀式の意味合い、被災することでもたらされた儀式のあり様の違いや火葬/土葬といった葬り方の違いによる感情の変化の違い、そういったことについての発言が多くありました。
ある誰を亡くす、その誰かがその方だけの亡くなり方をする、その亡くした誰かを葬(おく)る、という、その誰かについて一回限りの経験、その誰かと自分というただひとつの特別な関係における経験ということになります。対して、儀式や形式となると、何度か経験すること、誰かと経験を共有すること、ということになります。儀式や形式についての方が、対話の場において他者に伝えるために他者と共有できる言葉にして語りやすいのかもしれない、と感じました。あるいは、もしかしたら、ある特別な誰かや自分のためのことであるにもかかわらず、儀式という一定の決められた形式が他の誰かの都合で押し付けられる、ということに違和感を感じていたのかもしれません。
5つめ、まだまだ言い尽くされていないこと、時間が足りなかったことについて。
対話では、最後に問いを立てることを目指しての収束に向かう段階になっても、なかなか、収束には向かいませんでした。発言するために挙手される方も、多くいらっしゃいました。
発言された方の多くは、近しい方を亡くした時の経験に基づいて発言されていたように思います。近しい方を亡くした時の状況や気持ちを思い出して、あるいは、それから時間を経た現在の状況や気持ちについて、発言されている方が多かったように思います。どの方も多くの気持ちを抱えていらっしゃるであろうことは、想像に難くありません。
まだまだ言い尽くされていない、時間が足りていなかった、と感じています。
「葬(おく)るということ」というテーマでの対話を行って、多くの発言がありましたが、まだまだ言い尽くされていない、と感じています。
てつがくカフェ@せんだいでは「葬(おく)るということ」というテーマについて、今後の対話でもテーマとして取り上げ、引き続き皆さんと考えていきます。次回の「葬(おく)るということ」をテーマにした対話にも、ぜひ、ご参加いただきたいと思います。皆さんのご参加をお待ちしています。
報告: 小松健一郎(てつがくカフェ@せんだい)
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