〈3.11以降〉読書会-震災を読み解くために-第12回
■ 日時:2014 年 4 月 26 日(土)17:00−19:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 7f スタジオa
■ 参加無料、申込不要、直接会場へ。課題本をご持参ください。
■ 問合せ:philcfsendaiaw@gmail.com (綿引)
■ 主催:せんだいメディアテーク、てつがくカフェ@せんだい
■ 助成:財団法人 地域創造
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この「読書会」について
「読書会」は、あるひとつの本を取り上げ、それを参加者みんなで一緒に読んでいくものです。この読書会では、ほかの人々と共に読むということを最大限活かし、ひとつの本に対する人々の多様な「読み方」を大切にします。そうして参加者どうしが協力し合い、触発し合って、〈震災〉という出来事を――それを直接に扱う「震災関連書」をひとりで読むだけでは辿りつけないようなところまで――深く「読み解く」ことができるような場でありたいと願っています。
課題本
東 浩紀著「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」(講談社)
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てつがくカフェとは
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
〔 市民団体、震災復興、<問い>をたてる 〕〈3.11以降〉読書会-震災を読み解くために-第12回レポート
今回の読書会では、前半に前回までの課題本を読み、後半で次回の課題本を――今日の参加者の方々が紹介してくださった本の中から――決定しました。
今回の読書会の流れの詳細については、読書会のチラシをご覧ください。また、新しい読書会のやり方を採用した理由と以前から告知していた『フクシマの後で』については、このレポート最下部「読書会の新しい進め方について。『フクシマの後で』を読む読書会について」に書いてありますのでそちらをご覧ください。新しい読書会の進め方のひとつのポイントは、これまでは私(綿引)が課題本を選んで読み解いてきましたが、次回以降は参加者みなさんで選んだ課題本を題材として対話を行っていく点にあります。
このレポートではまずは(1)当日(次回の課題本として選定された本以外にも)どのような本が「震災を読み解くために」ということで紹介されたのかを紹介者の紹介文と共に報告し、そのあとで(2)今回の課題本についてどのような対話が行われたのかを報告します。(2)の部分はひとつながりの長い文章なので、まずは読みやすい(1)の内容から、つまり当日の進行の順番とは反対に報告します。その点予めご了承ください。
報告に入る前に、今回みなさんで選定した、次回の課題本について先にお知らせします。次回の課題本は小熊英二著『社会を変えるには』(講談社現代新書)のとくに第5章と第6章です。
この本を読んでいることを前提として、次回〈3.11以降〉読書会を進めていきます。
また次回もできるだけ、参加者の方々には本を紹介して頂きたいと考えています。その際、これは「震災を読み解く」読書会なので、たとえば「震災以降この本を読んで、このようなことを考えさせられた」とか、「震災を巡って、この本を題材に他の方と話をしたい、他の方の意見を聞きたい」等と思った本を紹介してください。ですから必ずしも震災時の出来事を主題とする本でなくとも構いません。たとえばあとで紹介する通り、今回の読書会では坂口安吾の『堕落論』を紹介してくださった方もいました。すなわちこれ以降この〈3.11以降〉読書会は、「震災」に関するある本についての参加者各々の考えだけでなく、「震災」に対する参加者の視点、あるいは「震災」という言葉の、参加者各々にとっての意味について、ありのままに話せる場でありたいと考えています(と同時にひとつの本をじっくりと読み解くことも続けていきます)。
次々回以降の課題本ですが、次回の課題本(a)と次回の参加者の方々の紹介された本(b)、そして今回紹介された本(c)のこの3つ(a, b, c)の中から決めます。
Ⅰ. 「震災を読み解くために」――参加者による本の紹介(発表順)
○いとうせいこう著『想像ラジオ』(河出書房新社)
死者や“当事者”について生者や“非当事者”が想像し語ることは許されるのか/必要な・善いことなのか/だとすれば一体何のため、誰にとってのことなのか。こうした諸々の問いを、震災を話題とするたび考えさせられてきたのも、また、時が経ってそうした問いに蓋をし、“答え”を出したつもりになっていたのも私だけではないと思う。しかしそんな人間を横目に、「想像ラジオ」のDJはひたすら死者について語り続け、死者の声を――疑いようもなくそれは著者の想像する声なのだが――届け続ける。その声は想像力を発揮しなくては聞き取れないのだが、“答え”を決めてからは蓋をしていた私の耳にも強烈に響いて、私の中であの問いをもう一度蘇らせた。(わ)
○坂口安吾著『堕落論』(発行元多数)
「花は咲く――」
流行りの歌のこの歌詞に、今仮に異議なしとする。しかし花は一体、どのような土壌のもとで咲き誇るというのだろうか。安吾が堕落を説いたのは、「総力戦」の果ての窮乏と混乱の最中においてであった。以来六十有余年。その間にも私達は、様々に「花」を見てきたのだと思う。しかし「花」とはとどのつまり、欲望の泥沼で幻視される「徒花」のことではなかったか。
戦後から「震災後」へ。花の美しさを求める心性は同時に、己の現実を見据える目を曇らせる。
「…人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。」
私達はまだ、「堕落」の遥か手前でまどろんでいる。(サ)
○原広司著『集落の教え100』(彰国社)
せんだいメディアテークには、「どこコレ?」という昔の仙台で撮影された写真を掲示し、どこで撮られたものかを呼びかける活動がある。今は失われた風景の写真に、何枚も貼られたポストイットカードを眺めると、人の住まう場所は人間の歴史の蓄積であると感じられる。本書は、世界各地の集落に蓄積された、自然と人間との時間について考察するものである。失われた集落の風景を通して、震災後を生きる私たちが考えるべきことの手がかりを得られるかも知れない。(こ)
○『世界 臨時別冊 No.826 東日本大震災・原発災害特集 破局の後を生きる』(岩波書店)
3. 11以後の読書会で大切なことは、正確には12日から15日に起きた原子力発電所爆発事故をいかに考え対処するかである。民主主義に惑わされて趣旨からそれているナンシーの第Ⅰ部は破局を扱って余りある種があります。(ま)
○鷲田清一著『語りきれないこと――危機と痛みの哲学』(角川学芸出版)
3.11という危機と痛みの後、私達は、個人も社会も語りきれない様々な思いを抱えつつ、新しい自分・新しい社会を模索しています。今まで私達は、生活のあらゆる分野を行政やサービス会社というプロに料金を払って委託するというシステムに依存し、命や文化に関わる価値判断までもプロにお任せしてきましたが、自分達で物事の価値を判断し、社会をデザインしていくためにはどうしたらよいのか、具体的なヒントが述べられています。(み)
○『特別授業3.11 君たちはどう生きるか』(河出書房新社)収録
理科 最相葉月「科学は私の中にある」
震災の時、専門家の「想定外」という言葉に失望したり、たくさんの難しい情報に振り回されて困ることが多くありました。それでも、復興もこれからの新しい生活も科学の力によって進みます。科学とどうつきあうのか、科学とは何かを考えてみたいと思い、この本を選びました。(さ)
○東野真和著『駐在記者発 大槌町 震災からの365日』(岩波書店)
大槌町は大震災で町長や役場の幹部・職員も亡くなり、行政組織は、機能出来なくなったため、各地から人の支援等が入りました。しかし、大震災から2年が経過し、衰退するだけとなっていた閉鎖的な沿岸部の地域にも、地元町民と外部との間で化学反応が起き、各地からの支援者の中に、都会では味わえないその魅力に取り憑かれた者が移住し始め、柔軟で外部の視点も受け入れたコミュニティ豊かな地域が醸成されて来ました。(な)
◎小熊英二著『社会を変えるには』(講談社現代新書)・・・次回の課題本
アンソニー・ギデンズの提唱する「再帰的近代化」を参照し、社会と個人の再帰的な関係性構築という視点で、熟議するための足場を整え、社会を変えるための方法論を説いている。これは、『一般意志2.0』の「社会と一般意志2.0/国家、という2つの再帰的構造」と関連性の高い内容となっている。再帰的な社会構造とはどういった意味や価値・可能性があるのか興味深く、さらなる議論の鍵となる概念である。(や)
Ⅱ. 課題本:東浩紀著『一般意志2.0』を巡る対話
多様な経歴を持ち、多種多様な知識を前提として持ち、様々な語彙を用いる人たちが集まるこの読書会でもなるべく多くの方に対話に参加して頂き、しかもなるべく本の内容に入っていくために、今回この読書会の前半では、本の内容に関してみなさんで共有できる「問い」をつくり上げ、それに取り組むことを目指して進めていきました。
とはいえ今回は時間配分のミスで、共通の問いを練り上げることには辿りつかず、個別の問いへの取り組みで終わってしまいました。次回はそこまでいけるようみなさんの「問い」を手早く集め、共通の問いを練り上げることに時間を費やします。
提出された問いは以下の通りです:
・モノとしての一般意志に「従う」とは?社会契約の前に
・どうして統治機構があるのか。
・俗流社会契約論とは何か。
・一般意志と正しさ(一般意志は正しい方向に進むのか。性善説)
・コミュニケーション抜きで政治ができるのか。
・社会契約とはどういうことか。
・(一般意志がそこから生じる)“国”とはどこからどこまでか。
・数学的存在(ベクトル、集合知)が常に正しいとは限らないのではないか。
これらの問いを出して頂いたあと、まずは、一般意志がベクトルに似たものだと本文で述べられていたことを巡って対話が続きました。
まだ課題本を読まれてない方のために用語の解説をすると:
・「特殊意志」=個々人の意志
・「一般意志」=ジャン=ジャック・ルソーという18世紀フランスの思想家・小説家の考える“共同体の意志”。
「一般意志」は、現代の「世論」(ルソーのいう「全体意志」)とは異なります。そしてルソーは「一般意志はつねに正しく、つねに公共の利益に向かう」(課題本41項からの孫引き)と言います。著者の言葉を借りれば「それ〔一般意志〕が誤ることは定義上ありえない」(41-2項より)ことになります。
だとすれば、もしルソーのいうような「一般意志」というものがあり、その向く方向を知ることができるならそれは素晴らしいことだとは思いませんか? というのも国家でなくとも、たとえばクラブ活動や会社の部署といった数十人の“共同体”の意志を決定することさえ非常に労苦を要する作業となることはみなさんもご自身の経験から知っていらっしゃるのではないでしょうか。その“共同体”の意志をたとえ「多数決」を取って決めたとしても(ルソーの用語で言えば「全体意志」を可視化しそれに従っても)、それは多数派の意見が正しいことを証明するわけでもなく、また多くの場合、少数派を黙らせる手段であるにすぎません。しかしルソーのいうように、共同体は「つねに正しく、つねに公共の利益に向う」一般意志に従いさえすれば良いのだとしたら、多数決や「同調圧力」で少数派を押し殺すこともなければ、議論や説得に膨大な時間をかけたり、結局議論がまとまらず共同体崩壊の危機に瀕したりすることもなくなります。
しかし「世論」、多数派の意志でないとしたら「一般意志」とは何なのか。当然これが、みなさんが一番気になる論点です。
ルソー自身は一般意志を、特殊意志(個々人の意志)から相殺し合うプラスとマイナスを取り除いた「差異の和」として定義しています。しかしこれもまた、それが「世論」でないとしたら理解しにくい定義です。
そこで著者は「差異の和」をスカラー(方向を持たず大きさしか持たない量。1、2、3等々の単なる数)の和ではなく「ベクトル」(大きさと方向をもつ量。「速度」等)の和を意味するものとして理解することを提案しています(45項参照)
しかし著者のこの提案に対して問いを投げかけた方がいました。その問いを説明するために、その方が持ち出した例は次のようなものです:
たとえば8人からなる共同体があったとします。またそのうち3人が「赤が好きで緑が嫌い」と言い、他の5人が「緑が好きで赤が嫌い」と言っていたとします。このとき、この二種類の「特殊意志」=個々人の意志は明らかに、互いに反対の方向を向いています。ですから、各々たとえば左向きのベクトル(←)と右向きのベクトル(→)で表すことができそうです。ベクトルの大きさ(個々人の意志の“強さ”にあたるでしょうか?)もすべて同じ大きさと想定しても問題はなさそうです。このとき、この共同体の「一般意志」は次のようなベクトルの計算によって導けるのだと考えられます。
←←←(赤が好きで緑が嫌いなひと3人分) + →→→→→(緑が好きで赤が嫌いなひと5人分) = →→(緑が好きで赤が嫌いなひと2人分)
この計算の結果がこの共同体の「一般意志」なのだとしたら、一般意志は「緑が好きで赤が嫌い」という特殊意志二つぶんに相当する意志だと考えられることになります。
しかしこのようにして“計算”によって導出された全体の意志も結局、「多数決」と変わらず少数派の意志を、しかも議論もなしに押し殺してはいないでしょうか? 著者は「全体意志はスカラーの和にすぎ」ず、「方向を消してしまう」(44項より)のに対して、ベクトルの和である一般意志がそうではないと言いますが、果たして上のように導き出された一般意志が「間違い得ない」、正しいものだと言えるのでしょうか? これがあの参加者の方が出してくださった問いであり、当日最も議論の主題となっていた問いだったと思います。
当日は色々な話がありましたが、結果出たひとつの結論は、個々人の意志は単純な二次元ベクトルには表し得ないというものでした。とくに共同体の構成人数が増えれば増えるほど、出された例のように単純に、構成員の意見がふたつに割れるということはない。つまり上で想定された好きな色、嫌いな色の例は「単純すぎる」からまるで多数決と変わらない仕方で一般意志が導き出されているが、現実にはあり得ないケースなのだと。
しかし(1)確かに構成人数が増えれば増えるほど個々人の意志が上の例のように奇麗に真っ二つに割れる可能性は少なくなるにしても、理論的には決して不可能なことではありません。少なくともその場合を考えることができます。また(2)たとえ一個人の意志そのものが2次元のベクトルに表せなくとも、(さきほど少し触れたように)たとえばそれを構成分に分解することもできるのではないでしょうか。実際のそのひとの意志が「緑が好きで赤が嫌いだが青も好きでリンゴは嫌い。日曜日にはサイクリングをして過ごしたい」だったとしても、共同体で「緑か赤か」を決める場合――たとえば共同体のシンボルの色をどちらの色にするか決める場合――には他の点がどうであれ、共同体の意志決定にかかわるその人の「特殊意志」の構成分として「緑が好きで赤が嫌い」を問題なく取り出せます。
したがって、あの方の出してくださったモデルを「単純すぎる」という理由でしりぞけてしまうには今日の議論ではまだ足りない気がします。結局当日は必ずしも著者が「一般意志」をベクトル“として計算できる”と言っているわけではなくて、ベクトル“のようなものとして理解することができる”と述べているにすぎない、と解釈することで落ち着きました。
そして残りの時間は「俗流社会契約説」がなぜ「俗流」と著者によって揶揄されなければならないのかについて話しましたが、とりあえず「義務を果たす代わりに権利を受けとる」と考えることによって国家が成り立っていると考えることが「俗流」で、対してルソーは社会をつくることそのものを社会契約として捉えていると確認したところで時間が来てしまいました。
これまで参加してくださっていた方々には、読書会前半の議論は明らかに物足りない内容だったかと思います。次回以降他の課題本を読書会の前半で読む場合には、それぞれの問いを手早く集めて、対話に時間を割けるように工夫していく予定です。
*読書会の新しい進め方について。『フクシマの後で』を読む読書会について*
この読書会ではこれまで何度も『フクシマの後で』を読むと告知してきました。またその準備として『一般意志2.0』を読むとも言ってきました。しかしこれらの本は私(綿引)が選んだものです。この本の主題、内容は「震災」に対する私の視点に縛られています。しかし「考えるテーブル」で行われる読書会では、そこに集う人々の多様性を、とくに「震災」に対する多様な視点を、もっと読書会の内容に反映させたいという欲求がてつがくカフェスタッフの側で起こってきました。それで、今回の読書会ように課題本の選定方法を一新することとなりました。しかし以前に予告した以上、また哲学者以外の人々にも読まれる価値のある本だとも思いますので、『フクシマの後で』、そしてそのための『一般意志2.0』を読む読書会は、場所や日時を変えて「考えるテーブル」の外で続けていきます。こちらに興味のある方は綿引(philcfsendaiaw@gmail.com)までご連絡ください。
報告:綿引周(てつがくカフェ@せんだい)
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