第51回「被災地で/から、広域避難者の今を考える」
■ 日時:2016 年 5 月 29 日(日)15:00-17:30
■ 会場:せんだいメディアテーク 7f スタジオa
■ ファシリテーター:西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
■ 参加無料、申込不要、直接会場へ
《今回の問いかけ》
復興庁の報告(「全国の避難者等の数」平成28年3月29日)によれば、いまだに約17万1千人の方が、東日本大震災により、「(広域)避難」という状況に置かれています。そのなかには、もはや帰りたくても帰る場所がないなど、「元」の生活に戻ることを断念なさった方々もおられるでしょう。あるいは、帰れるけれども、避難してしまったことに対する後ろめたさもあって、なかなか帰りづらい、と感じている方もおられるかもしれません。
以前、北海道に広域避難された方々とともに「てつがくカフェ」を行う機会がありました。そこでは、〈支援される立場〉である「避難者」という立ち位置をみずから解いて、そこに住みつくことを決心することで、逆に、避難を余儀なくされておられる方々を〈支援する立場〉へと、自分の立ち位置を移されたスタッフの方にお会いしました。その方は、避難しているときの〈自分〉の佇まいの不安定さや、またその不安定さを嫌ってみずから「避難者である」ことを辞める決断をしたときの辛さ、戸惑いなどについてさまざまな切り口からじっくりと、しかも自分の放つ言葉のひとつひとつを丁寧に確認するように発言されておられました。
(広域)避難者を受け入れている地域や自治体は国内にたくさんあります。おなじく復興庁の報告によれば、平成28年3月10日現在で、全国47都道府県、1,138の市区町村が避難者を受け入れているそうです。そこでは、その地域ごとに、さまざまな仕方で避難者を受け入れようとする試みが行われていると聞きます。〈受け入れる〉ためには、まずは避難者が今どのような思いを抱いているのかについてしっかりと〈寄り添おうとする構え〉が欠かせません。そういった営みを維持していくことは、とても大変なことだと思います。
しかしながら、被災地では、広域避難を余儀なくされておられる方々が今どのような〈問題〉を抱え、また被災地に対してどのような〈思い〉を抱き続けているのかについて〈寄り添う〉機会が少ないような気がします。だからでしょうか、そういった広域避難者の方々を取り巻く状況に対する想像力も、思いのほか希薄な気さえします。
そこで、今回の「考えるテーブル てつがくカフェ」では、あまりガチガチの「テツガク」に踏み込まずに、広域避難者の方々に対する想像力を鍛えるといった切り口に試みの比重を少し移して、避難者を取り巻く〈問題〉や、そこで抱えておられる〈思い〉を参加者どうしの対話をとおして丁寧に手繰り寄せ、じっくりと応えてみたいと思います。「被災地で/から、広域避難者の今を考える」。それは、「広域避難」というあり方をとおして、逆に、被災地が今抱えている〈問題〉を際立たせる試みなのかもしれません。みなさま、ぜひご参加ください。
西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
◆ 問合せ:mmp0861@gmail.com(てつがくカフェ@せんだい 西村)
◆ 主催:てつがくカフェ@せんだい、せんだいメディアテーク
◆ 助成:一般財団法人 地域創造
《てつがくカフェとは》
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
第51回てつがくカフェ「被災地で/から、広域避難者の今を考える」レポート
今回は、北海道広域避難アシスト協会代表の佐藤伸博さんをインタビューした映像の視聴から始まりました。この映像から触発された言葉が、てつがくカフェの前半では交わされました。
「避難」には種類があり、例えば「自主避難」「強制避難」「家庭内避難」があるのではないかという指摘。「自主避難者」たちが、元々の居住地の人びとから「なぜ帰ってこないんだ?」「復興の妨げになる!」といった言葉にさらされてしまい、二重の分断に陥っているのではないかという危惧。
そして、「自主避難」の根拠は、実はぼんやりとしていて、それは絶対的な価値基準の不在を示しているのではないかという見解。「避難者」と「移住者」は違うのではないかという問いかけ。
また、「避難」という言葉からは、「原発事故による避難」についての発言が誘発されていましたが、津波や地震からの避難もあるという指摘もありました。
中盤は、「キーワードをあげる」ことを意識して話す時間です。あげられたのは、以下の4つでした。
・制度の枠組み/個人の自由/絶対的価値
・帰る/選ぶ
・個人の意志(どこでどう生きるか)
・共同体の意志(お互い、生活、支え)
そして後半は、キーワードを用いて〈問い〉を練り上げる時間です。9つの〈問い〉をつくることができました。
Q.避難者は、いつまで避難者なのか? 避難者じゃなくなるのはいつなのか?
Q.個人の意志と、共同体の意志は、対立しているのか?
Q.制度の枠組みは、個人の自由を救えるのか?
Q.個人の自由はどこまで反映されるのか?
Q.帰る場所をどう決めるのか?
Q.誰が避難者なのか?
Q.避難者・被災者の自立を支援するとは?
Q.失われた土地の難民がどこに住むのか?
Q.私たちは避難者に、どう向き合うのか?
以上のなかから、「個人の意志と、共同体の意志は、対立しているのか?」についてさらに考えてみることになりました。ここでは
「〈共同体〉とはそもそも何を意味しているのか?」
「〈共同体〉に意志はあるのか?」
といった、議論がなされました。
〈広域避難〉という現在も進行している問題を、問題の渦中に留まりながら考え続けるためには、相当な知的体力が要るはずです。今回は参加された方々との粘り強い対話によって、〈広域避難〉について吟味することができました。引き続き、このような場を開いていくことができればと思っています。
報告:辻明典(てつがくカフェ@せんだい)
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