てつがくカフェ第56回「展覧会『まっぷたつの風景』から『明日』を問う」
今回は、2016年度せんだいメディアテーク自主企画展覧会「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」の関連イベントとして開催します。
■ 日時:2016 年 12 月 25 日(日)14:00-17:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 6f ギャラリー4200
■ ファシリテーター:西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
■ ファシリテーショングラフィック:近田真美子(てつがくカフェ@せんだい)
■ 定員:先着60席
■ 問合せ:office@smt.city.sendai.jp(せんだいメディアテーク)
■ 主催:てつがくカフェ@せんだい/せんだいメディアテーク
■ 助成:一般財団法人 地域創造
■ 展覧会チケットの半券の提示でご参加いただけます。
申込不要、直接会場へ。
《今回の問いかけ》
「大津波や原発事故をもし『未曽有の出来事』と言うなら、それに対しては『未曽有の物言い』が用意されなければならないはずだ」。
(『陸前高田2011-2014』155頁)
「未曽有」なのだから、当然それは、これまでの古さ/新しさを決定していた基準や言葉遣いさえも超えた、さらには「良い悪い、正しい正しくないすら『わからない』ような『未知の方角』」に向けて歩み出していかなければならない。まさにそれは、これまでの「物言い」では到底たどり着くことができないような、「明日」というものに向けて歩み出していくことにほかならないのだ。
畠山直哉は、写真集『陸前高田』のなかでそのような趣旨のことを記しています。とはいえ、「未曽有の物言い」によってしかたどりつけない「明日」とは果たしてどのようなものなのでしょうか。それは、〈未来〉や〈将来〉とも異なる次元のものなのでしょうか。また、いまそれを問い直すことにどのような意味があるのでしょうか。この「てつがくカフェ」では、畠山のこの問題意識をもとに、震災以降を生きるわたしたちにとっての「明日」を考えます。
しかし、それが相当過酷な作業になることは間違いなさそうです。なぜなら、この対話の場では、これまでわたしたちが大事にしてきた価値基準そのものが疑問に付され、留保され、問いの俎上に挙げられ、無効にされてしまうからです。つまり、震災以前のわたしたちの「物言い」や価値基準に頼ることは許されないということです。ならば、この「明日」を問うという作業は、震災によって壊れ、失ったものを再びこれまでの基準に則ってもとの状態に戻すという、いわゆる〈復興〉の姿を問うこととは決定的に異なるものになるはずです。畠山氏の言う「未曽有の物言い」が孕んでいる困難さは、まさにこの営みのなかにこそ横たわっていると言えるでしょう。そのことを、畠山は次のように表現しています。
「そもそも『未曽有』とは、過去に類例がないもののことであるのだから、古い新しいの規準すら、役に立たないはずで、だから『未曽有の物言い』とは、ひょっとして僕らには奇妙で理解しにくいものであるかもしれず、今までのような、歴史の先端に出来事を登記するようなタイプの、あのよくある『新しさ』とは、無縁なものになる可能性がある。」(同前)
わたしたちは、この困難さの前で立ち尽くしてしまいそうです。しかし、先に挙げた文章に続いて、畠山はすぐさま次の言葉を続けています。
「いずれにしろ僕には、それを受け入れる準備はできている。時間や歴史の感覚は、僕の中ではもうすでに粉々なのだから。」(同前)
わたしたちもまた、畠山の後を追い、「時間や歴史の感覚が粉々になった」ところから〈対話〉を始めたいと思います。みなさまのご参加、心よりお待ちしています。
西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
《てつがくカフェとは》
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
第56回てつがくカフェ「展覧会『まっぷたつの風景』から『明日』を問う」レポート
今回は、「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」の関連イベントとして開催してきた全3回のシリーズの最終回でした。テーマは「『明日』を問う」です。
はじめに、ファシリテーターが今回のテーマに寄せた文章(≪今回の問いかけ≫参照)を読み上げました。文章の中には畠山さんの写真集『陸前高田2011-2014』のあとがきの一部が引用されています。畠山さんの作品や文章に表されている『明日』の意味に、私たちはどんなふうに臨み、どんなふうに応答しようかと、いつもとは少し違った対話の時間を過ごしました。
途中で、対話の柱となるキーワードを挙げていきました。
これらは、お互いの話を聞く中で「『明日』を考えるためにこれは欠かせない」と感じたことを整理し、共有し、参加者全員で考えを深めてゆくための切り口を確認し合うためのものです。
出てきたキーワードは次のとおりです。
・見える(見えてしまう/見えない/見た/見ざるをえない/見ようとしている/見たい)
・生きる/考える/経験
・進路
・時間軸のニュアンスの明日
・つくるものとしての明日
・歯車
・綻び
・覚悟
そして、これらの中から「見える」に注目し、私たちが「見える」ということにどういう意味を込めているのかを丁寧に探っていきました。
『明日』は「見たい」と思うから「見える」のか、見たくなくても「見えてしまう」のか。これまでの経験に基づいて「見える」のか、はじめからそこにあって「見える」のか。さまざまな意見がある中で、①“私”があって、そこから『明日』を見ている、②『明日』があって、そこから今の“私”が見えるようになる、というまったく異なる2つとらえ方があることがわかってきましたが、『明日』と“私”がどのようにつながっているのかをさらに考えられたら…とファシリテーターが投げかけたところで時間切れとなってしまいました。
最後に、今回の対話を会場の片隅でじっと聞いていらした畠山さんが登場し、感想を語ってくださいました。
そこで話してくださったのは、イギリスのパブに置いてあるという“FREE BEER TOMORROW”と書かれたプレートのことでした。このプレートを見て「『明日』来ればビールがタダだ!」と楽しみに家に帰るけれど、翌日パブに行ってもプレートにはやっぱり「また『明日』」。畠山さんは、『陸前高田2011-2014』のあとがきに記した文章について、「早く『明日』にならないかなと、寝床の中で考えさせるようなこと。小さいことでもいい。『明日』を感じさせるものでさえあれば、それで充分だという気持ちで書いた」とおっしゃっていました。
みなさんはこの話を聞いてどんなことをお考えになったでしょうか。3時間の対話を終えてまだまだ問いが深まる、てつがくカフェの醍醐味を味わえた回でした。
報告:S
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