てつがくカフェ第55回「展覧会『まっぷたつの風景』から『割り切れなさ』を問う」
今回は、2016年度せんだいメディアテーク自主企画展覧会「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」の関連イベントとして開催します。
■ 日時:2016 年 12 月 10 日(土)14:00-17:00
■ 会場:せんだいメディアテーク 6f ギャラリー4200
■ ファシリテーター:西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
■ ファシリテーショングラフィック:近田真美子(てつがくカフェ@せんだい)
■ 定員:先着60席
■ 問合せ:office@smt.city.sendai.jp(せんだいメディアテーク)
■ 主催:てつがくカフェ@せんだい/せんだいメディアテーク
■ 助成:一般財団法人 地域創造
■ 展覧会チケットの半券の提示でご参加いただけます。
申込不要、直接会場へ。
《今回の問いかけ》
「『単純な物言い』の権化は呪われるがいい」。
(『陸前高田2011-2014』154頁)
写真家の畠山直哉は、自身の写真集『陸前高田2011-2014』(河出書房新社、2015年)の「あとがき」のなかでそのように書き付け、物事にすぐに白黒をつけてすべてを単純化してしまうわたしたちの態度に強い違和感を示しています。その違和感の背景には、東日本大震災による大津波の経験が大きく影響しているようです。
さらに畠山は、震災以降、自分自身が物事に白黒をつけようとする世間の物言いや態度を徹底して忌避するような「気むずかしい男」になったとも述べています。
「大津波によって、僕は自分が、なんだか以前よりも複雑な人間になったと感じている。複雑といっても、別に良いこと、というわけではない。むしろ良いこと、悪いことと単純に言い当てることができないような事象が、自分の目の前に大量に出現し、それに手をこまねいたり考え込んだりしているうちに、世間で交わされている単純な物言いのほとんどが、紋切型の欺瞞(ぎまん)や無駄としか聞こえなくなってしまった。そのような気むずかしい男になってしまったということだ。傍(はた)から見たら『気むずかしい男』にしか見えないだろうけれど、じつは僕が感じる欺瞞や無駄とは、僕自身の思考や行動も含めて反省的に感じ取られるものであって、その点で常に『本当にこれでいいのか?』 と、 僕に自問を強(し)いてくるような性質のものだ。それに対して自分の心は『わからない』と即答する場合がほとんどであり、その後はたいがい、 押し黙ってうつむくことになる」。(同前)
しかし、この「押し黙り」や「うつむき」をある種の〈あきらめ〉へと繋げてしまってはなりません。わたしたちは、むしろこの「うつむき」のなかに、震災以降、とくにわたしたちを取り巻いているこの「割り切れなさ」に丁寧に寄り添い、いまこそそれを徹底的に問い直すべきであるとする畠山の強い気概を読み込むべきではないでしょうか。
震災から5年半を経たいま、わたしたちは、この「割り切れなさ」をどのように捉え、またそれにどのように臨んでいくべきなのでしょうか。参加者の皆さんとともに、彼から突き付けられたこの困難な課題、「割り切れなさ」の意味を問い直します。
西村高宏(てつがくカフェ@せんだい)
《てつがくカフェとは》
てつがくカフェは、わたしたちが通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引き離し、そもそもそれって何なのかといった問いを投げかけ、ゆっくりお茶を飲みながら、「哲学的な対話」をとおして自分自身の考えを逞しくすることの難しさや楽しさを体験していただこうとするものです。
てつがくカフェ@せんだい http://tetsugaku.masa-mune.jp
てつがくカフェ第55回「展覧会『まっぷたつの風景』から『割り切れなさ』を問う」レポート
今回の「てつがくカフェ」も、「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」の関連イベントとしてひらきました。テーマは「『割り切れなさ』を問う」です。『単純な物言い』の権化は、呪われるがいい。
(『陸前高田2011−2014』、河出書房新社、2015、154頁)
これは畠山直哉さんの写真集のあとがきに書き付けられた言葉ですが、今回のてつがくカフェでも、物事に白黒をつけたり、二分化させたりすることで、難しいことをわかりやすくしすぎることへの戸惑いや、躊躇が語られていたような気がします。
どうやら、出来事の「捉え方」には幅があるようです。前半では、「理解はできるけれど、納得はできない」「頭ではわかっているのだけれど、どうも腑に落ちない」といった出来事について語られました。
ここで語られた「割り切れなさ」というものは、喩えるならば、切れ味の鈍い刃物のようなものでしょうか。その言葉には、ただ単に「納得ができない」と言い放つようなものではなくて、何か鉛のような重苦しさを引きずっているかのような、そんな意味が込められていたのかもしれません。
特に、言葉が交わされたのは、やはり東日本大震災にまつわる経験について抱いている「割り切れなさ」についてです。
例えば、このような。
見えていたはずのものが、次第に見えにくくなっていくような経験。地震や津波の跡を訪れてから、かつては、開かれていたはずの眺望が、時の流れとともに閉じはじめていく。復興とともに、町の景色は早々と変わっていく。記憶のなかにかすかに残っていたはずの町並みは、まったく別の姿へと変化しはじめており、かつての自分が慣れ親しんでいたはずの景色を思い出すことすら難しくなってきている。
速すぎる復興。ある親しい人は、町が作り替えられていく様を、嬉々とした表情で語りだしている。その親しい人を前にして、私はといえば、景色の急速な変化への戸惑いを禁じえない本心を、容易には打ち明けられずにいる。そんな自分に気付いたとき、私は「割り切れなさ」のような〈何か〉を感じる。言うなれば、〈隔たり〉のなかに「割り切れなさ」が生じている…。
どうも「割り切れなさ」というのは、たやすくは捉え難い言葉のようです。
捉え難いながらも、後半は以下のキーワードをあげつつ、この言葉について考えていきました。
キーワード
○自分・他者
○でたらめ
○公私
○感情
○貧富
○自己同一性
○自発的な意志
○自然
○意志決定
○生きる
○割り切らないこと
○割り切ること
そしてさらに、あげられたキーワードの意味を吟味しつつ、キーワードをもとにして「割り切れなさ」をどのようなものとして捉えるのかを考えていきます。ここは、意味をしっかりとつかまえて、言葉が生まれはじめるのをじりじりと待つかのような、粘り強さが求められる時間でした。
「割り切れなさ」というのは、頭ではわかるけれども、心では理解できない、そして、感情がついていけない、そのような感覚であると、ある方は語りました。生まれ育った町が、津波によって飲み込まれていく様を、ただただ呆然と立ち尽くしながら眺めていたという経験が、「割り切れなさ」を生み出したのかもしれない、と。そしてそれはあたかも、日常のなかにあるささやかな出来事の意味さえも、問いに附してしまうような経験だったのかもしれません、と。
最後は、このようなやり取りを受けて、「割り切れなさ」の定義を、対話をしながら考えます。
「割り切れなさ」とは・・・
“ただ”生きていれば“よい”から、どのように生きるか?という疑問が生じたときにうまれてくるものである。
これは、あの時間、あの場所に集まった方々と一緒に、じっくりと言葉を交わしあうことによって考えられた、どの本にも載っていない定義です。
次回の「てつがくカフェ」では、「畠山直哉写真展 まっぷたつの風景」から、〈未来〉でも、〈将来〉でもなく、〈明日〉について考えます。
報告:辻 明典(てつがくカフェ@せんだい)
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